ＪＲ西日本福知山線脱線事故に思うこと

    まず、亡くなられた方１０７名の方の御冥福、負傷された方の１日も早い回復を心からお祈り申し上げます。
飛行機は落ちる(かもしれない)もの。自動車事故も起きる(かもしれない)もの。だけど、鉄道事故は(滅多に)起きないもの。これが、今までの常識でした。安全神話などというものは、元々存在しないものの、多くの人々が今までこう思っていたはずです。ところが、今回の未曾有の大事故でこの常識は覆されてしまいました。
    事故原因は現在解明中ではあるものの、大幅に制限速度を超えて走行したことによるのは明らかです。鉄道に関する知識がほとんどないのに、いい加減なことを言って高見運転士やＪＲ西日本を非難するだけの一部マスコミや記者、事故後に関西学院大学でいい加減な講演をしてＪＲ西日本を非難した田中康夫長野県知事、本当に腹が立ちます。確かにATSには問題がなくはなかったものの、こういったものの更新には想像以上の非常に多くの費用がかかることをご存じなのでしょうか。また、軽量車体の２０７系やボルスタレス台車にも罪はなかったはずです。仮に１両５０ｔ近いキハ１８１系だったとしても、結果は同じ、いや重い分だけ衝撃が強く被害が大きくなったはずです。自分たちの発言が社会にどれだけの影響を与えるのか考えて、ものを言ってもらいたいものです。
    鉄道車輌は１km/hたりとも制限速度を超えて運転してはいけない。このことは亡くなった高見隆二郎運転士ももちろん承知していたはずです。なのになぜ･･･。高見運転士にプロ意識がなかった。確かにそれは言えていると思います。しかし、なぜそうなったのか、背景をよく考えなければなりません。列車の遅れやミスに対する行き過ぎたペナルティーが背景になっているのは明らかです。
    ｢伊丹駅でオーバーランをしてしまった。それも４０m。このままでは日勤教育そして給料カットが待っている。たまたま、車掌は仲のよい先輩の松下さんだったので、距離は過小報告してもらえそうだ。だけど、尼崎に着くまでには遅れを回復しなければならない･･･。直線区間は制限いっぱい、その先の３００Ｒの直前で急ブレーキをかけるしかない･･･。日勤教育はもうごめんだ･･･！頭をよぎる嫌な思い出・・・。あっ！ブレーキをかけるタイミングが遅かった･･･！非常ブレーキ！！！ あーっ！！！！！！｣
    事故の背景に行き過ぎたペナルティーがあるのは間違いありません。オーバーランの虚偽報告もマスコミは問題にしていますが、確かにオーバーランそのものは、私が知っている限りでは京浜急行を除けば滅多にないもの。しかし遅れの原因となるとはいってもオーバーランしてしまえば８mだろうと４０mだろうと、出発信号を越えなければそんなに変わらないのではないかと思います。後輩をかばう優しい先輩、どこの職場にもいるはずです。そして、このようなことはどこにでもあるはず。仮に松下車掌が正確に報告していても、高見運転士が気を取り乱している状態では、事故は起きたでしょう。事故の本質とは関係ありません。｢甘い｣と言われるかもしれませんが、私は高見運転士と松下車掌もこの事故の被害者かもしれないと思います。また、ＪＲは国鉄という難しい組織を無理矢理民営化してできた会社です。国鉄問題は終戦直後まで遡らなければならないかもしれません。その難しい組織を分割民営化してできたＪＲ西日本、外部の者にはよく分からない難しい問題を抱えているに違いありません。自殺者も出るほどのいじめ・制裁に近いようなペナルティー、これもその一部だと思います。ＪＲ西日本は社会的制裁を受けなければならないでしょう。組織全体の膿を出し切らなければなりません。しかし、このようなことはＪＲ西日本の固有の問題でしょうか？どこの職場でもある程度はあるような気がします。
    ある遺族の方がおっしゃられたことが印象に残っています。｢ＪＲの方も、警察の方もここ(安置所)に居られた方はみんな一生懸命やってくれた。これは社会の緩みが原因だ。あんな運転士に運転させていたのは(この時点では日勤教育などについて、あまり報じられていなかった)ＪＲ西日本の緩みだ。あなた方(マスコミ)もそうだ(緩んでいる)。私もそうかもしれない。｣その通りだと思います、すべての国民がこの言葉を肝に銘じていかなければならないと思います。
    全国の鉄道車輌の運転士さん、ご自身の職業に誇りを持ちプロ意識を持って安全運転に心がけてください。ＪＲ西日本の幹部を初めとする社員のみなさん、遺族を初めとする被害者のみなさんに誠心誠意対応してください。そして、信頼を回復するよう精一杯努力してください。松下車掌さん、これからも辛いことがたくさんあるとは思いますが、頑張ってください。後輩をかばったあなたの行為は間違っていなかったと、私は思います。
    遺族でも、被害者でもない者が感情的にＪＲ西日本を非難しても意味はないと思います。そんなことをしても、ＪＲ西日本はよくならないでしょう。なぜこうなったのか、真の問題点は何なのか、冷静に考えなければならないと思います。ＪＲ西日本に限らず、このような悲惨な出来事が２度と起きないように。そして、私はＪＲ西日本のエリアに行ったとき、できる限りＪＲ西日本を利用します。新生ＪＲ西日本を応援するために。


追伸：私はＪＲ西日本をかばう気は毛頭ありません。

２００５年４月３０日
２００５年５月２日 加筆修正
根岸旭台鉄道研究所

トップページへ